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「生きるってことは、愛だよ」これは重度の病気と障がいのある90歳のハナさんが下さった言葉の宝物です。ヘルパーになって間もないころ、病院の集中治療室で私はハナさんと出会い、その後福祉ヘルパーでもめったに経験しない「在宅ターミナルケア」に取り組み始めました。この記事では、在宅でのお付き合いの中でハナさんからいただいた言葉の数々を紹介します。
「生きるってことは、愛だよ」この言葉を紹介したくて、オカリナ演奏とともに作った動画がこちらです。曲はシューベルトのアベ・マリアです。

新人男性ヘルパーとして鍛えられたスパルタな日々

ハナさんは
全身をご自分で動かせないうえに、
何かが体に少しでも当たると激しい痛みが襲う、
そんなつらい状況の中で、
私たちの訪問介護を受けておられたのです。

しかし、
ご自身非常につらい中にも、
心のあるヘルパーを育てたい、この社会を暖かい社会にしたい、
そういう夢を、持ち続けておられ、
夢を貫かれた方でした。

ハナさんは、若いころから、
この世の中を、心の通った温かい世の中にしていきたいという夢を
持っておられたそうです。

しかし、その夢に反して、
彼女の人生、
数えきれないほどの多くのことがあったそうです。
信じていた人に裏切られ、
ひどい仕打ちを受けて無一文にされたこともあった、
ここではとても語りつくせない
熾烈な出来事の数々。

しかし、
どんなことがあっても、
どんな状況にあっても、
ハナさんは
決して夢を捨てることはありませんでした。

夢をあきらめちゃ終わりだ

ハナさんは言われます。

「世の中、つらいことばかりだ、
なぜ?って思うことばかりだ、
でも
わたしは諦めないよ。
諦めちゃあ終わりだ。
自分で決めた夢だ。
自分で持ちおおせるさ。
世の中、本当は暖かいんだよ。」

こうお話しされている最中も、
激痛がハナさんを襲う。
何とかして差し上げようと、
枕やクッションの位置を私が変えると、
それがかえって痛い。
余裕のない私は、
いつの間にか手つきが荒っぽくなっている。

ハナさんは、
こんな体になって気づいたことがあると
おっしゃいました。

それは、

「忙しいこと
余裕のないこと
それは、
人を冷たくもする」
ということです。

余裕のない私にこんなことも諭されました。
「忙しそうだね。
忙しいっていう気持ちはわかるよ。
でもね、
この
忙しいっていう漢字を分解してごらん。
心を亡くすということだよ。
恐ろしいことだ。
心を亡くしちゃあいけないよ。」

そして、
今もはっきり思い出されるのが、
お食事の介助をしていた時に
花さんから諭していただいた言葉です。

食事介助は、放り込めばいいってもんじゃないよ

1時間の制限時間の中で、
掃除、食事作り、お下のお手伝いなど、
たくさんのことをテキバキとこなしながら、
食事の介助をしていた時のことです。
私は、車で30分かかる次の利用者さんの所に行く時間を気にして、
壁の時計に視線が行きました。
そしていつしか、ハナさんのお口に食事を運ぶペースが
速くなっていました。
その状態を敏感に感じられたハナさんが、私に諭された言葉です。

「食事はただ放り込んだらいいってもんじゃないんだよ。
食事はただ栄養の補給だけじゃないんだよ。
食事には三つの意味があるんだ。
わかるかい?」

私は答えられませんでした。

「それはね、栄養を取るってことも一つだけど、
それだけじゃない。
味や盛り付けを楽しむことだ。
それだけでもない。
一緒に楽しい時間を過ごして、一緒に喜ぶことだ。

食事がおいしい時、盛り付けがきれいな時、
それが思い出になって、ずっと嬉しいことが食事だ。
そして
おいしいねって、一緒に喜んだり、
一緒にお話ししたりすることも食事だ。

栄養を放り込めばいいって思ってちゃあ、
大間違いだよ。」

こうして
ハナさんとの日々、厳しいお言葉をいただきながらも
いろいろなお話しをしていただいたことが思い出されます。

ハナさんは
本当に心細く辛い中で
ご自身の魂を絞り出すように
私たちヘルパーにお言葉をくださいました。

そんな日々の中、
こんなに辛いことがあっていいのかと思うようなことが
ハナさんを襲います。

その、魂を砕くほどの辛い状況の中で
心の底から私に託してくださった言葉、
それが
「生きるってことは、愛だよ」
という言葉だったのです。

この言葉は
きれい事ではなく
ドロドロの、ずたずたの花さんの魂の底から出てきた
真実の言葉だったのです。